スペクトル解析 (Spectrum Analysis) - CAESAR II - ヘルプ

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日本語
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CAESAR II
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CAESAR II Version
13

スペクトル解析は、過渡的な荷重を受ける配管系の最大応答を推定するために用いられる代表的な手法です。解析結果は、変位、断面力、反力、応力などの統計的な合成となっています。個々の応答は、実際の荷重ケースでの異なる時間で生じる最大値を示しているわけではありません。スペクトル解析は、地震荷重のように荷重履歴がランダムである場合、あるいは正確にはわからない場合に用いられます。CAESAR  II では、2種類のスペクトル解析を用意しており、組み合わせて用いることもできます。地震荷重スペクトルと荷重スペクトルです。配管系全体に一様に作用する地震荷重と、拘束グループごとに異なる地震荷重と固定点移動を評価することができます。荷重スペクトルは、安全弁の吹き出し、流体ハンマーリング、混層流によるスラッグなどの衝撃荷重を解析するために用いられます。

地震荷重スペクトル解析 (Seismic Spectrum Analysis)

地震荷重を時刻歴解析で解くことはしません。地震はランダムな運動であり、同じサイトで地震が発生しても、それぞれの地震によって挙動が異なるからです。地震荷重に対する解析定義を容易にするために、想定される時間軸での加速度、速度、あるいは変位のランダムな波形の振動数域での簡単な挙動を得る必要があります。もっとも卓越する振動数域での挙動を示すものが応答スペクトルです。地震荷重で用いられる応答スペクトルは、1自由度系の振動振り子を振動台において、サイトで代表的な地震荷重の時刻歴波形で揺らして得られる変位、速度、加速度の最大応答として表されます。

すべての地震荷重は異なりますが、同様な地震は、それぞれの地震波で生じる最大応答の時刻は異なりますが同じような最大応答を示すことが期待されます。 応答は、最大地盤速度と加速度をもとに求められ、動的荷重係数は、ある減衰に対して地震荷重の卓越する調和振動数と振動振り子の固有振動数との応答倍率で表されます。一連の減衰での応答スペクトルは、それぞれの振動振り子の最大応答を示した線図となります。応答スペクトル線図の例を次に示します:

地震応答スペクトルは、調和振動荷重における動的荷重係数の線図に類似しています。これは、地震荷重が強い調和振動の傾向を持っているからです。減衰が増加すると、システムの応答は地盤の応答に近づきます。通常、地震荷重スペクトルは、柔、共振、剛領域ごとに強い特徴を持ちます。地震波形が建物、配管系を通過することにより、スペクトルは複数のピークを持ちます。この複数のピークは解析の不確実性を補うために安全側に包絡されます。標準的に、地震応答スペクトルのピークは精度の悪さを補うために拡幅もされます。

応答スペクトルの作成にあたっては、システムの振動が1自由度系の振動振り子と全く同じ挙動を示すという考え方に立脚しています。システムの応答は、変形、速度、あるいは加速度で表されますので、スペクトルの各項は、振動数に対して次の関係を持っています:

d = v / w = a / w2

ここで:

d = 振動数に対する応答スペクトルの変位

v = 振動数に対する応答スペクトルの速度

w = 応答スペクトル値に対応する円振動数

a = 振動数に対する応答スペクトルの加速度

応答スペクトル解析は、次の手順で行います:

固有値解析により振動モードを抽出します。それぞれの振動モードは振動数とモード形状を持っています。

  1. 作用荷重によるそれぞれの振動モードでの最大応答が、振動モードに対応する固有振動数から応答スペクトル値として決定されます。

  2. 個々の振動モードの応答を合成して、システムの全応答が決定されます。合成方法は、応答が時間に依存しないこと、それぞれの振動モードでの質量の位置を考慮して合成します。

CAESAR  II では、4つの代表的な地震荷重スペクトルを用意しています:

El Centro

このデータの出典は、J.Biggs の Introduction to Structural Dynamics で、1940年5月18日に発生したEl Centro California地震の南北方向の成分です。記録されている最大加速度は、0.33g です。このスペクトルは、5 から 10%の減衰を持つ弾性応答系に適用できるように用意されています。

原子力規制ガイドライン (Nuclear Regulatory Guide) 1.60

定義済みのスペクトル名は次のとおりです:

1.60H.5 1.60V.5 - 水平/垂直、0.5% 減衰

1.60H2 1.60V2 - 水平/垂直、2.0% 減衰

1.60H5 1.60V5 - 水平/垂直、5.0% 減衰

1.60H7 1.60V7 - 水平/垂直、7.0% 減衰

1.60H10 1.60V10 - 水平/垂直、10.0% 減衰

これらのスペクトルは、原子力規制ガイドライン (Nuclear Regulatory Guide) 1.60 の指導に従った原子力説の耐震設計用の応答スペクトルです。これらは、設計での地盤最大加速度 ZPA (ゼロ周期での加速度) に応じて増減して設計に供されます。CAESAR  II ではスプレッドシートのパラメータでこのスケールを指定できます。

建築構造物規格 (Uniform Building Code)

定義済みのスペクトル名は次のとおりです:

UBCSOIL1 岩、および固い地盤での応答スペクトル

UBCSOIL2 深い非粘性、あるいは固い粘土地盤での応答スペクトル

UBCSOIL3 柔らかい、あるいは中程度の粘土と砂質地盤での応答スペクトル

これらのスペクトルは、建築構造物規格 (Uniform Building Code) 1991年版 Figure 23-3 に示される3つの地盤種別での基準化された応答スペクトルです。使用にあたっては、ZPA を増減します。ZPA は、地震地域係数 Z と地震重要度係数 I の積になり、UBC Tables 23-I および 23-L によります。ZPA は、CAESAR  II ではスプレッドシートのパラメータでこのスケールを指定できます。

ユーザ定義の応答スペクトル (User defined spectra)

ユーザ定義の応答スペクトルは、横軸に周期範囲、あるいは振動数範囲と、縦軸に変位、速度、あるいは加速度をとって表します。これらの応答スペクトルはテキストファイルから読み取るか、あるいは動的入力処理の際に直接にスペクトルテーブルに入力することができます。

独立した拘束点の運動に対する適用 (Independent Support Motion Applications)

地震動は、地盤を通して伝わる衝撃波です。通常、これらの波形は、数百フィートの波長を持っています。配管系の拘束が地盤の基礎から取られている場合には、地震動による振動が同じと見なされる数百フィート内のグループ化を行うことができます。配管系のすべての拘束が、地盤に直接支持される種類のものであれば、地震波形と全く同じ動きになります。この種の振動形態は、一様な拘束による振動 (uniform support excitation) として分類されます。しばしば、配管は、地盤からばかりでなく、架構、建屋、あるいは容器構造物からも支持されます。これらの中間の構造物は、地震動の振動特性にフィルターをかけたり、あるいは地震動を増幅したりします。このような状態において、中間構造物に支持される拘束は、地盤に直接支持されている振動形態とは同じにはなりません。このような配管系の正確なモデル化は配管系の支持条件により異なる振動荷重を作用させる必要があります。この種の振動形態は独立した拘束による振動 (ISM : independent support motion) として分類されます。異なる拘束グループが異なる振動荷重を受けるとき、一様な拘束による振動荷重では生じない拘束グループ間でも異なる動きが生じます。1つの拘束グループと他の拘束グループとの相対変位は、疑似静的変位 (pseudostatic displacement)、あるいは静的固定点変位 (seismic anchor movements) と呼ばれています。一様な拘束の振動荷重では、空間的な、かつ各振動モード成分の応答は合成できます。独立した拘束による振動荷重では、それぞれの拘束グループでの空間的な、かつ各振動モード成分の応答は合成でき、さらに地震動の疑似静的な成分を動的応答に加算する必要があります。

独立した拘束による振動 (ISM) のような地震荷重での主な違いは、衝撃荷重ケースの作成にあります。一様な拘束の振動荷重では、暗黙の了解として配管系のすべての拘束に同じ地震荷重が作用するとしています。独立した拘束による振動 (ISM) では、異なる地震荷重が異なる拘束グループに作用します。スペクトル荷重ケース (Spectrum Load Cases) タブが表示され、次のようなパラメータがあります:

  • スペクトル (Spectrum) (名称)

  • 係数 (Factor)

  • 方向 (Dir)

  • 開始節点 (Start Node)

  • 終了節点 (Stop Node)

  • 増分 (Increment)

  • 固定点移動 (Anchor Movement)

名前 (Name)係数 (Factor)方向 (Dir) は、一様な拘束の地震荷重に対する入力です。独立した拘束による振動 (ISM) では、地震荷重の作用する節点グループを 開始節点 (Start Node)終了節点 (Stop Node)増分 (Increment) で指定しなければなりません。固定点移動 (Anchor Movement) は、地震時の拘束点セットの変位を定義しなければなりません。この変位は、疑似静的荷重成分を計算する際に用います。省略すると、デフォルトは応答スペクトルの最小振動数に対応する応答スペクトルから得られる変位になります。

荷重スペクトル (Force Spectrum Analysis)

荷重履歴のわかっている衝撃荷重のような非ランダム荷重に対しても、同様な手法が適用できます。地震荷重の運動方程式が、荷重スペクトル解析と同様であることを示しています:

右辺の項は、配管系に作用する動的荷重にほかならず、F = Ma と同じです。ここで、a が動荷重での加速度です。したがって、荷重スペクトル解析では、類似の運動方程式を解くことにより解を得ることができます:

ここで

F = 動的荷重 (ウォーターハンマー、あるいは安全弁などの動的荷重)

地震荷重における変位、速度、あるいは加速度のスペクトル代わりに、動的荷重係数 (DLF : Dynamic Load Factor) スペクトルが荷重スペクトル解析で用いられます。DLFスペクトルは、動的最大変位と静的最大変位の比です。地震応答スペクトル解析では、地震振動荷重の時刻歴から応答計算を始めました。荷重スペクトル解析でも、荷重履歴から始める点を除いて同じです。地震荷重と同じように、1自由度系を振動台でこの時刻歴荷重を作用したものです。応答スペクトルは、この場合には固有振動数に対する DLF であり、動的荷重による最大振動変位と同じ値の静的荷重を作用させたときの変位の比率を表しています。衝撃荷重に対する応答変位を作成する別の意味は、作用荷重下の異なる振動数をもつ振動振り子の運動方程式を数値的に積分していることにほかなりません。ツール (Tools) > DLF Spectrum Generator を選択します。

荷重スペクトル解析から、次の2つの結果処理を実行できます:

  • 動的荷重解析結果から、固有振動数、振動モード形状、刺激係数、質量、荷重、変位、拘束荷重、断面力、あるいは応力を照査します。動的解析結果は、振動モードと衝撃荷重から、もっとも大きなモーダル寄与度をも示しています。

  • スペクトル解析で用いるために抽出した個々の振動モード形状をアニメーションで確認します。