調和振動解析 (Harmonic Analysis) - CAESAR II - ヘルプ

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CAESAR II
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CAESAR II Version
12

システムの動的応答は運動方程式で表すことができます:

ここで

M = システムの質量マトリックス

= 時間に依存する加速度ベクトル

C = システムの減衰マトリックス

= 時間に依存する速度ベクトル

K = システムの剛性マトリックス

x(t) = 時間に依存する変位ベクトル

F(t) = 時間に依存する荷重ベクトル

調和振動解析ソルバーは、脈動、あるいは回転機器の偏芯変位による低振動数域での振動を解析する場合によく使われます。この微分方程式は、特別な場合を除いて陽な形で解くことができません。調和振動解析がその特別な場合の 1つです。配管系に脈動のような荷重、あるいは変位が作用する場合に正弦波的な波形の場合です。調和振動の場合に、減衰がゼロであれば、システムの運動方程式は次のようになります。

M (t) + K x(t) = F0 cos (w t + Q)

ここで

F0 = 調和振動荷重ベクトル

w = 調和振動荷重の円振動数 (radian/sec)

t = 時間

Q = 位相角 (radian)

この微分方程式は直接解くことができます。どの時間における節点変位が求められ、節点変位から反力、断面力、そして応力が得られます。

解は次のようになります。

x (t) = A cos (w t + Q)

ここで

A = システムの調和振動変位の最大ベクトル

加速度は、変位の時間に関する二次微分となりますから、次の式で表すことができます。

(t) = -A w2 cos w t

変位と加速度を基本調和振動運動方程式に戻して、次の式が得られます。

-M A w2 cos (w t + Q) + K A cos (w t + Q) = Fo cos (w t + Q)

cos (w t + Q) で両辺を割れば、次の式になります。

-M A w2 + K A = Fo

整理すると、次の式になります。

(K - M w2) A = Fo

この式は、すべての線形静的配管系に対して同じ式になります。加振振動に対する解析時間は1つの静的解析と同じであり、荷重の位相関係に関係なく動的最大応答を直接得ることができます。解析処理時間の短さから、また解析解が直接適用できることから、できるだけこの機能を使うことが望まれます。なお、次の 2つのことに注意してください:

  • 減衰がゼロでない場合には、調和振動運動方程式は減衰マトリックスが質量と剛性の乗数として表される場合 (レーリー減衰と呼ばれます) にのみ解が得られます。すなわち、

    [C] = a [M] + b [K]

    振動モードを基礎にして、臨界減衰 Cc と定数 a、b との関係は次のようになります。

    ここで

    w = 振動モードの無減衰のときの固有振動数 (rad/sec)

    実際の問題では、a は非常に小さく、無視できます。したがって、b は次のようになります。

    b = 2 Cc/w

    CAESAR II では、調和振動解析でこの減衰についての解釈を用いていますが、2つの問題があります。ひとつは、多自由度系では、b は実際には単一の値ではありませんが、調和振動の解を得るために単一の b としています。もうひとつは、減衰マトリックスを作成する前にモード振動数は未知であることです。よって w は b の計算においてモードの振動数の代わりに荷重の振動数を用いています。加振振動数がモーダル振動数に近い場合に、これで正しく減衰を推定することができます。

  • 同時に複数の調和振動荷重が作用し、それぞれの位相が同位相でない場合に、システムの応答は個々の荷重の応答の和となります。

    x(t) = S Ai cos (w t + Qi)

    ここで

    Ai = 荷重 i でのシステムの変位ベクトル

    Qi = 荷重 i の位相角

    このような場合、解の絶対値の最大は得られません。それぞれの荷重の解とそれらの和は、荷重サイクルのさまざまな時間で得られます。したがって、最も厳しい荷重ケースはどれかを注意深く検討する必要があります。一方、CAESAR  II では、システムの変位が最大になる振動数/位相のペアを選択することができます。

減衰調和振動解析は位相によって応答が異なります。

調和振動解析がもっとも多く使われるのは、流体脈動問題か、あるいは回転機器の偏芯変位によって生じる低振動数の現場での振動問題です。このような問題に対する標準的なアプローチを次に説明します:

  1. 現場での潜在的な動的問題を同定します。大きな繰返し振動なのか、あるいは疲労損傷を伴う高応力が既設の配管系にあるのか、現在の現象がもたらす危険状態を想定します。動的モデルの構築の際のデータとなるよう、問題のあらゆる症状、すなわち、変位、過応力箇所を同定し、できるだけ定量化します。

  2. CAESAR II を用いて、配管系のモデルを構築します。 このモデル化はできるだけ正確に行います。これは、荷重ばかりでなく、得られる応答の大きさに影響を与える特性について正確にモデル化します。振動が生じている範囲のモデル化が重要です。弁のオペレータ、フランジ継手、オリフィス、その他の配管内の機器などです。振動範囲に余分な節点を設けてモデル化しておくことも望ましいでしょう。

  3. 振動荷重の原因を推定します。これにより、振動数、大きさ、位置、そして荷重の方向を推定します。動的荷重は多くの原因により生じますので、推定は困難なものです。動的荷重は内部の圧力変動、外部の振動、交差部の流れの偏流、混層流などに起因します。ほぼすべての場合、システムの機械的固有振動数に一致して励起する振動数を持っており、それゆえに大きな振動になっているという事実があります。機器による荷重であれば、加振振動数は運転振動数の整数倍になるでしょう。音響振動問題での動荷重であれば、加振振動数は流体力学によるストローハルの式から推定することができます。可能な限りの最良の仮定によって、動的荷重の大きさと位置を推定してください。

  4. 調和振動荷重、あるいは変位を用いてモデル化します。一般には、脈動か振動が原因の場合となります。いくつかの調和振動解析を行い、対象とする振動数を中心としてある範囲の振動数で掃引します。これは不確定要素による影響を検討するためです。それぞれの解析結果を検討し、大きな振動、すなわち調和振動による共振の兆候を調べます。共振が見いだされたなら、現場での症状と比較します。共振の兆候が見いだされなければ、動的モデルが適切ではないことを示しています。したがって、改善しなければなりません。さらに精度の高いモデルとするか、よりよい荷重の推定か、あるいは振動数範囲のさらに細かい掃引を行うかです。モデルをさらに詳細にする場合には、現場での配管系の挙動に近い数学的なモデルになるまで繰返しモデルを見直します。

  5. この時点で、より的確な配管系と、より的確な荷重、およびその両方の特性の関係が改善されています。

  6. 何が問題であるかを解析結果から分析評価します。調和振動による応力は繰り返されますので、配管材料の疲労限で評価されます。振動変位は許容振動限度、あるいは振動管理ガイドラインにより分析、評価します。

  7. 解析結果、およびその分析と評価から問題であると判定されたとします。1つの振動モードによる加振振動によるものとします。たとえば、減衰のある単一の振動モードでの動的荷重係数は次のように表せます。

    ここで

    DLF = 動的荷重係数

    Cc = 臨界減衰定数

    ここで "臨界減衰" =

    wf = 調和振動荷重の加振円振動数

    wn = 振動モードの固有円振動数

    システムのモード抽出が行われ、1つ以上のモードが固有振動数と加振周波数に近いものだとします。その振動モードをさらに検討し、システムの振動形状に近いものを同定します。この振動モードが他の振動モードよりもはるかに増幅されていることを確認します。

  8. 問題のモードを消去する必要があります。モード形状で高い値を示す部分に拘束を追加することにより比較的容易に対策を施すことができます。この対策を施すことができないようであれば、システムの質量分布を変えることでも振動モードを変えることができます。システムの修正が不可能な場合は、加振周波数を変えることを検討します。動的荷重が内部の気柱振動によるものであれば、内部の流れの状態を変えるような対策を立案します。これにより問題が解決されるか、より問題を複雑にします。いずれにしても CAESAR II の「よい見本」であることを避けます。システムを修正した後で、調和振動解析を再度行い、応力、変位などを再評価します。

  9. 動的問題が解かれたら、システムは静的に再度解析され、修正が静的荷重ケースに及ぼす影響を検討します。

    拘束を追加すれば熱膨張応力が増しますし、質量を増やせば持続応力が増します。

調和振動解析からの結果を次の 2つの方法で処理できます:

  • 変位、拘束力、断面力、応力をグラフィックス表示するか、あるいはレポート表示することができます。

  • それぞれの振動数荷重ケースに対して、変形パターンをアニメーション表示できます。

調和振動荷重は、静的/動的荷重の合成オプションで合成することはできません。